2 債務者が複数の場合 (1) 分割債務

民法第427条は,分割債務について,別段の意思表示がなければ,各債務者は平等の割合で債務を負担することを規定しているところ,この規定につては,内部関係(債務者間の関係)ではなく対外関係(債権者との関係)を定めたものであると解されている。すなわち,例えば,債務者間で平等でない負担割合の合意があったとしても,債権者との関係でその旨の別段の意思表示がなければ,債権者との関係では平等の割合による分割債務となる旨を定めているということである。しかしながら,そのことは,条文の文言からは必ずしも明確ではないと指摘されている。そこで,条文上もこの点を明確にすべきであるという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]条文上,分割債務について判例の立場を明らかにするという点については賛成。

[理由]補足説明のとおり。

2 債務者が複数の場合 (2)連帯債務 ア 要件

ア 要件

現行民法は,「数人が連帯債務を負担するときは」(同法第432条)との文言から始まる規定を置くのみで,連帯債務となるための要件を明示していない。この点については,一般に,法律の規定によるほか,関係当事者の意思表示によっても連帯債務が成立すると解されており,これを条文上も明らかにすべきであるという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]成立要件を明確に条文化することについては賛成

[理由]補足説明のとおり。

(関連論点)

商法第511条第1項は,「数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する」ことを規定する。民法上は連帯とする旨の明示又は黙示の意思表示が必要とされているところ,商法第511条第1項は,数人が一個の商行為によって債務を負担した場合について,商取引の安全を図る観点から,特別規定を設けたものである。 この商法第511条第1項の規定については,取引の安全を図る必要性は商取引のみならず民事取引にも妥当することから,民事の一般ルールとすべきであるとの見解がある。この見解によれば,数人が一個の商行為によって債務を負担した場合に限定せず,数人が一個の行為によって債務を負担した場合には広く一般的に連帯債務の成立を認めることになる。この見解について,どのように考えるべきか。

[意見]商法511条の一般ルール化については,反対する。

[理由]民事上のルールとして,数人が一個の行為により,債務を負担した場合に広く一般的に連帯債務の成立を認める必要は無い。当事者の合意で連帯して債務を負担するという内容が認められた場合に,連帯債務とすればよい。このような一般ルールを認めることは,民法の商事法化につながるのであり,連帯債務となる以上は,独自の意思表示が必要であると考えるべきだ。

2 債務者が複数の場合 (2)連帯債務 イ 連帯債務者の1人について生じた事由の効力

現行民法は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかという点について,相対的効力を原則としつつも(同法第440条),多くの絶対的効力事由を定めている(同法第434条から第439条まで)。 この絶対的効力事由のうち,相殺(同法第436条第1項)及び混同(同法第438条)については,絶対的な効力を生ずることに特段の異論はない。 また,それ以外の事由についても,現行法の規定内容を実質的に改正する必要はないという考え方も提示されている。 他方で,連帯債務は一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するところ,絶対的効力事由が多いことは連帯債務の担保的効力を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するのではないかという問題も指摘されている。また,法律の規定により連帯債務とされるもののうち共同不法行為者が負担する損害賠償債務(同法第719条)については,判例・学説は,いわゆる不真正連帯債務として絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がないとしている。 以上を踏まえ,現行法が定める絶対的効力事由の見直しの要否について,どのように考えるか。

[意見] 連帯債務の絶対事由の見直しは必要であり,事由を絞り込むべきであると考える。連帯債務者相互間に絶対的効力事由を生じさせるべきといえるだけの関係があるとはいいにくいので,債務者間に一定の関係がある場合に限って絶対的効力を生じさせる等の検討が必要である。 なお,福岡での検討では,連帯債務について,現行法を変更する積極的な立法事実が存在しないとして,現行法のとおりで良いという意見があり,同様に債権の効力を徹底する観点から,弁済などの絶対的債権消滅事由以外については,全て相対効としておくべきであるという意見もあった。 よって,連帯債務関係について,現段階で福岡での検討結果を一つの見解としてまとめることは出来ず,相対的に多数であったと思われる意見を記載するに留まる。

(ア) 履行の請求

民法第434条は,連帯債務者の一人に対する履行の請求について,絶対的効力を認めている。 これは,連帯債務の担保的機能を強化する方向に作用し,債権者に有利なものであるが,他方で,請求を受けていない連帯債務者に不測の損害を与えるおそれがあるとの問題も指摘されている。 そこで,履行の請求を絶対的効力事由とはしないという考え方や,絶対的効力事由となる場面を限定すべきであるという考え方などが提示されているが,この点について,どのように考えるか。

[意見] 履行請求については相対的効力に留めるべきである。

[理由] 実際には履行請求を受けていない連帯債務者についてまで,履行遅滞に陥るというのは妥当ではない。従って,債務は別個独立であるという原則に一旦立ち戻り,絶対的効力を生じさせるべき場面はどのような場面か再検討すべきである。とすれば,意思表示で相互に連帯債務関係になったというだけで,他の連帯債務者に履行の請求がなされているかを確認しあわなければならないという負担を連帯債務者相互が負うというのは,過大な負担となろう。 なお,「基本方針」による「連帯債務者の間に協働関係がある場合」に限定して絶対効を生じさせるという考え方も検討に値するが,「協働関係の有無」を債権者と債務者が別個に判断する必要もあり,むしろ混乱することも考えられる。よって,履行請求については相対的効力とすべきである。

(イ) 債務の免除

民法第437条は,連帯債務者の一人に対する債務の免除について,その連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を認めている。 この点については,連帯債務者の一人に対して債務の免除をする場合の債権者の通常の意思に反すると指摘して,相対的効力にとどめるべきである(負担部分についての絶対的効力を生じさせるためには,他の連帯債務者との関係で債権者がその旨の免除をすればよい)とする考え方が提示されているが,どのように考えるか。

[意見] 相対的効力に留めるべきである。

[理由] 相対的免除が可能であることを考えると,相対的効力としても差し支えはないと考えられる。

(ウ) 更改

民法第435条は,連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅すると規定する。 この点については,連帯債務者の一人との間で更改をする場合の債権者の通常の意思に反すると指摘して,相対的効力にとどめるべきであるとする考え方が提示されているが,どのように考えるか。

[意見] 相対的効力に留めるべきである。

[理由] 部会資料に呈示されている考え方のとおり。

(エ) 時効の完成

民法第439条は,連帯債務者の一人について時効(消滅時効)が完成した場合に,その連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を認めている。 この点についても,連帯債務の担保的機能を弱める方向に作用する絶対的効力事由をできる限り少なくする等の観点から,相対的な効力にとどまるものとする考え方がある。もっとも,このような考え方に立つとしても,時効が完成した連帯債務者に対して,その後に弁済等をした他の連帯債務者が求償できることとすると,時効制度の趣旨との関係で問題を生じることから,この求償を制限する(その限度で他の連帯債務者にも影響が及ぶものとする)かどうかをさらに検討する必要がある。この点について,どのように考えるか。

[意見] 時効完成の効力は原則として相対的なものとすべきであるとの意見が多かった。しかし,時効の効果について,仮に基本方針のような効果に留めるとすると,実体的に債権が消滅するというより履行拒絶ということになるのではないかということから,連帯債務者の一人について,消滅時効が完成した場合には,他の連帯債務者はその負担部分につき,少なくとも支払いを拒絶することが出来るものとすべきであるという見解もあった。

[理由] 相対的効力に留まるという見解は,連帯債務の担保的効力の強化,また,債務者にとっても他の債務者に生じた事由による利益の享受を受けられなくなるということに留まるのみであることから,相対的効力にとどまるべきであると考えられる。 他方,消滅時効制度を実体的な債権消滅という効果をもたらすものと考えるのか否かという点から今回の債権関係が論じるとなると,時効完成の効力が実体的な債権消滅につながらない場合の求償関係を再度検討する必要があるとして,現段階でのこの効力をどう考えるべきかは,再検討が必要という意見もあった。

(オ) 他の連帯債務者による相殺権の援用(民法436条2項)

判例は,民法第436条第2項の規定に基づき,連帯債務者が他の連帯債務者の有する債権を用いて相殺の意思表示をすることができるとしているが,このような帰結に対しては,連帯債務者の間では他人の債権を処分することができることになり不当であるとの指摘がされており,学説上,同項の規定は,相殺権を有する連帯債務者の負担部分の範囲で他の連帯債務者は弁済を拒絶することができる旨を定めたものであるとする見解が有力である。また,同項の規定については,仮に有力学説のように理解するとしても合理性に乏しいとして,これを廃止するという見解も提示されている。 このような状況を踏まえ,債権者に対して債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない場合の規律については,どのような方向で見直しをすることが相当であるか。

[意見] 廃止すべきであるという意見もあったが,同時に抗弁権説で明文化すべきであるとの意見もあった。

[理由] 連帯債務者が他の連帯債務者の債権を相殺で消滅させるというのは,私的自治に反するところから,436条2項そのものを削除すべきであるという意見があった。同時に,436条2項の立法趣旨である求償の循環の回避や反対債権を有する連帯債務者を債権者の無資力の危険から保護するという趣旨は妥当性があるとして,抗弁権説を明文化すべきであるという意見もあった。

(カ) 破産手続の開始

民法第441条は,連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときに,債権者がその債権の全額について各破産財団の配当に加入することができるとしている。 しかし,この規律は,破産手続における債権者間の公平を図ることを目的とするものであって,必ずしも民法において規定されなくてはならないものではなく,また,全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合の破産手続への参加については,破産法第104条第1項に規定が設けられており,実際に民法第441条が適用される場面は存在しない。 そこで,民法第441条については,これを削除するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 削除すべき。

[理由] 補足説明のとおり。

2 債務者が複数の場合 (2)連帯債務 ウ 求償関係

ウ 求償関係

現行民法は,第442条から第445条までに連帯債務者間の求償関係についての規定を置いているところ,これを見直すに当たり,どのような点に留意すべき点か。

(ア) 一部弁済の場合の求償関係

民法第442条は,「連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たとき」の求償関係について規定しているところ,連帯債務者の一人が一部弁済をした場合の求償関係は必ずしも明確ではない。とりわけ,求償権の発生のために自己の負担部分以上の出捐をする必要があるかどうかについては,議論のあるところである。 この場合の求償関係について,判例は,連帯債務者の一人が自己の負担部分に満たない弁済をした場合であっても,他の連帯債務者に対して割合としての負担部分に応じた求償をすることができるとしている。 そこで,連帯債務者の一人が一部弁済をした場合に他の連帯債務者に対して割合としての負担部分に応じた求償をすることができることを条文上も明らかにすべきであるという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 割合により求償可能なことを明文化すべき。

[理由] 補足説明のとおり。

(関連論点)

民法第442条は,「連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たとき」の求償関係について規定しているところ,債務者の一人が代物弁済や更改後の債務の履行をした場合の求償関係は必ずしも明確ではない。 この点について,代物弁済や更改後の債務の履行をした連帯債務者は,その出捐額が共同免責額以上である場合には,共同免責額以上に他の連帯債務者に対して求償することはできず,他方,その出捐額が共同免責額を下回る場合には,出捐額を基に割合としての負担部分に応じて他の連帯債務者に対して求償することができると解するのが一般である。 そこで,連帯債務者の一人が,代物弁済や更改後の債務の履行をした場合に,他の連帯債務者に対して,出捐額を限度として,割合としての負担部分に応じた求償ができることを条文上も明らかにすべきであるという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 同様に割合により求償可能なことを明文化すべき。

[理由] 補足説明のとおり。

(イ) 通知を怠った連帯債務者の求償の制限等(民法443条)

民法第443条第1項は,求償権を行使しようとする連帯債務者に他の連帯債務者への事前の通知を義務付ける趣旨の規定であるが,これに対しては,連帯債務者は,履行期が到来すれば,直ちに弁済をしなければならない立場にあるのであるから,その際に事前通知を義務付けるのは相当ではないとの批判的な見解もある。 そこで,事前通知義務を見直すことが考えられるが,どのような点に留意すべきか。また,事前通知義務を廃止する場合には,どのような手当てが必要となるか。

[意見] 事前通知義務を定めた民法443条1項は廃止すべきである。また,廃止に伴う手当として,民法443条2項の事後の通知が無い際の後弁済者の弁済を有効とみなす規定を,先弁済者からの求償と,弁済の通知の先後関係により優劣を決する規定を設けるべきである。

[理由] 各連帯債務者はそれぞれ履行期が到来すれば直ちに支払わなければならない義務を負っているのであり,事前通知義務の負担は過大である。また,連帯債務者が多数の場合に通知を出すのは非常に負担が大きい。また,そもそも連帯債務といえども別個の債務であるから,通知を必要とする必要性が乏しい。ただし,1項のみを廃止してしまうと遅いもの勝ちとなる危険があり,調整規定を設けることが必要である。

(関連論点)

連帯債務者間の通知に関しては,他の連帯債務者の存在を認識できない場合にまでこれを要求するのは酷であるとの指摘もある。 連帯債務が成立する関係にありながら,他の連帯債務者の存在を認識できないというのは,例外的な事態であるとは思われるが,共同不法行為の場合等には,起こり得ないことではない。 連帯債務者間の通知に関して,他の連帯債務者の存在を認識できない場合には,その義務を課さないことも考えられるが,どうか。

[意見] 賛成する。

[理由]補足説明のとおり。

(ウ) 負担部分がある者が無資力である場合の求償関係(民法444条前段)

民法第444条前段は,「連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。」と規定するが,負担部分のある連帯債務者がすべて無資力の場合の処理は必ずしも明確ではない。 この点について,判例は,負担部分のある連帯債務者がすべて無資力である場合において,負担部分のない複数の連帯債務者のうちの一人が弁済等をしたときは,求償者と他の資力のある者の間で平等に負担をするとしている。 そこで,このことを条文上も明らかにするという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 判例理論を明確にすべきである。

[理由] 判例の考え方を条文上も明らかにするものであり,反対する理由がない。

(エ) 連帯の免除

民法第445条は,連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合に,他の連帯債務者の中に無資力である者がいるときは,その無資力の者が弁済をすることのできない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分は,債権者が負担すると規定する。 しかし,この規定に対しては,連帯の免除をした債権者には,連帯債務者の内部的な負担部分を引き受ける意思はないのが通常であるとして,削除すべきであるとする見解がある。 この点について,どのように考えるか。

[意見] 連帯の免除の規定は削除すべき。

[理由] 補足説明のとおり。

2 債務者が複数の場合 (3)不可分債務

現行民法の下において,不可分債務には,性質上の不可分債務と意思表示による不可分債務とがあり(同法第428条参照),可分給付を目的とする債務を意思表示により不可分債務とすることも連帯債務とすることもできる。これは,連帯債務には多くの絶対的効力事由が設けられているのに対し,不可分債務にはそれが設けられていない(民法第430条の括弧書部分)という効力の差異があるためである。 ところで,前記(2)イにおける検討の結果として,連帯債務における絶対的効力事由を絞り込むこととする場合には,不可分債務と連帯債務との間に効力の差異がなくなる可能性がある。 前記(2)イの検討結果に依存する問題であるが,仮に両者の効力の差異がなくなるとすれば,不可分債務は専ら不可分給付を目的とし(性質上の不可分債務),連帯債務は専ら可分給付を目的とするという整理をすることも考えられるが,この点について,どのように考えるか。

[意見]不可分債務は性質上不可分債務,連帯債務が専ら可分給付を目的とするという整理方法に賛成。

[理由] 現行法では,可分給付を目的としながら,合意により不可分債務とすることが出来るなど,概念としてわかりにくい。

(関連論点)

民法第431条は,不可分債務が可分債務となったときは,各不可分債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負うと定めているところ,この規定の趣旨については,不可分債務というのは,給付が分割できないことから認められた特別の概念であり,給付が分割できるようになった場合には,分割債務となるのは当然であると説かれている。 しかし,債権の目的が不可分給付から可分給付となったときに必ず分割債務になるというのでは,当事者の意思(とりわけ,不可分債務の担保的効力を重視していた債権者の意思)に反する場合があることが指摘されている。 そこで,不可分債務について,当事者間に反対の特約がある場合には,債権の目的が不可分給付から可分給付となったときに,分割債務ではなく連帯債務となることを認めるべきであるとする見解がある。 この点も,前記「(2)イ連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」の検討結果と関連する問題であるが,どのように考えるか。

[意見]合意により分割債務ではなく連帯債務となることを認めるべきである。

[理由]合意による連帯債務かを認めるに過ぎず,特に不都合はない。

民法改正(債権関係・債権法)に関する意見書です。ご自由にご覧ください。