Home > 第2 保証債務 > ★ 参考判例(保証)

1 総論

保証は,不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段として,実務上重要な意義を有しているが,他方で,個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないこともあって,例えば,自殺の大きな要因ともなっている連帯保証制度を廃止すべきであるなどの指摘もあるところである。

保証については,保証契約の内容を適正化し保証人の保護を図る観点から,平成16年の民法改正により一定の見直しが行われたところであるが,上記の問題意識を踏まえ,なお一層の保証人保護の拡充を求める意見がある。

このような状況を踏まえ,保証に関する規定の見直しに当たり,どのような点に留意して検討を進めるべきか。

[意見]上記の問題意識・問題設定については基本的には賛成できる。実際に検討事項が指摘するように,民主党のマニフェストでは,中小企業の総合的支援の一つとして,「自殺の大きな要因ともなっている連帯保証人制度について,廃止を含め,あり方を検討する。」とされている。従って,自然人については,その保証契約を原則として禁止し,個別的に自然人の連帯保証の弊害より,自然人が保証することによる便益が多いという場合には例外的にその保証を認めるという抜本的見直しを行うというべきである。

[理由] 自然人が「連帯」保証をするという場合に,その「保証能力」を分析的に検討すると,その殆どが,物上保証制度を利用すれば足りるところであり,自然人の将来収入による保証能力は極めて限定的に考えられるところである (フランスの保証人保護については,補足説明69頁以下。詳細は,脚注のとおり)。

(3) 自然人である保証人の最低限の財産の保護
自然人である保証人が生活に必要な最低限の財産までも奪われることを回避するために、民法2301条は、消費法典L.331-2条(債務超過状態の処理手続において債務者 に留保されるべき最低限の収入額等に関する規定)によって定まる最低限の財産については、債権者は保証人に留保しなければならない旨規定している。

従って,自然人の保証人が惹起する弊害を勘案すると,債権者の保証人に対する説明義務や適時執行義務を明確にするより,そもそも

(1) 保証人予定者の現有財産を主たる債務者の責任財産とする(物上保証する)こと
(2) 仮に保証人の将来収入を当てにするのであれば,その範囲を明確にして将来債権譲渡担保を設定すること
(3) 事業者代表者の場合に主たる債務者である事業者と代表者の財産の混同を回避するというのであれば,詐害行為取消権の証明責任を転換するなどすれば足りる筈である。

このように考えると,保証債務を自然人が負担するというのは,法的義務としては過大になりがちであり,かつ債権者にとっても債務者にとってもその予見可能性が乏しいものであって,不適当である。とすれば,そもそも抜本的に自然人の保証制度を見直すべきである。以下,保証制度の目的に沿って,その必要性の有無を詳述する。

 

I 現在の保証人を巡る問題状況

1 保証の情義性等とトラブル

従来より、保証は国民の身近な契約の一つであるが、その情義性・未必性・無償性・軽率性などからトラブルの多い分野でもある。

2 多重債務の原因

特に過大な保証が原因で保証人が「生活破綻」「経済的破綻」に追い込まれ、「多重債務」「破産」などに至る事案は後を絶たない。現在、国では多重債務者対策本部を設置し(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saimu/index.html)多重債務問題改善プログラム(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saimu/kettei/070420/honbun.pdf)のもとで官民あげての多重債務対策の取組がなされているが、保証についてはなお従前からの民法の諸規定に委ねられており、保証規制は手つかずのままである。

3 自殺対策

また、「自殺対策」という観点も重要である。わが国は自殺者が年間3万人を超える事態が10年以上継続するという異常事態にあるが、中小零細事業者が保証人に迷惑をかけることを苦にして理由に自殺をしたり、生活破綻に追いやられた保証人が自殺をするという事例もある。政府の自殺対策緊急戦略チームは自殺対策100日プランを公表しているが、その中には「連帯保証人制度」「政府系金融機関の個人保証(連帯保証)」について「制度・慣行に踏み込んだ対策に向けて検討する」としている 。(http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/senryaku/pdf/p1-8.pdf

更に,自殺者による社会的損失は22兆円を超すという試算も発表されており,この対応は非常に重要である 。(http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/manual/gyosei/gyosei24.pdf

4 中小零細事業者の再チャレンジ

平成16年民法改正に先立つ平成15年7月に金融庁「新しい中小企業金融の法務に関する研究会」報告書(http://www.fsa.go.jp/news/newsj/15/ginkou/f-20030716-1/02.pdf)では個人保証の問題点として、事業再生の早期着手に踏み切れないという傾向を助長、経営者として再起をはかるチャンスを失うなど借り手となる中小零細事業者の再チャレンジの視点が掲げられ、また既に多くの金融機関において少なくとも経営に実質的に関与していない第三者を包括根保証人とするような取扱いを行わないような態勢作りが始められているとされている。

5 連帯保証制度だけが問題ではない。

「自殺の大きな要因ともなっている『連帯保証制度』」とされているが、連帯保証制度のみを廃止すれば問題が解決するものではない。保証人が契約時に予期せぬ負担を被ったり、返済能力をはるかに超える保証(根保証を含む)がなされることも問題である。

6 保証制度を考える際の視点と保証禁止の可能性の検討を。

保証制度を考える際には、保証人保護といっても「第三者保証人の保護」「経営者等の保証人の保護」「借主の保護」を「融資・資金調達の円滑」との兼ね合いで検討がなされなければならない。また、個別保証と根保証、通常保証と連帯保証でも規制が異なりうる。

(4) 事業者と自然人との間での過大な保証の禁止
保証債務と保証人の財産とが比例性(proportionnalité)を欠く保証については、消費法典L.313-10条とL.341-4条によって、その効力を否定される。すなわち、消費法典L.313-10条は、金融機関が消費者与信または不動産与信に際して自然人との間で保証を締結する場合につき、保証債務の内容が保証人の収入及び財産と比べて均衡を失しているときは、債権者は保証契約を主張することができない旨規定する。さらに、消費法典L.341-4条によって、自然人による過大な保証の禁止に関する以上の規律の適用対象が事業者一般に拡大されている。

配付資料8-2・45頁以下に日弁連「統一消費者信用法要綱案」 (2003年8月)が引用されているが、日弁連の要綱案は保証人の説明義務に留まるものではない。同要綱案では、消費者の返済能力のみに依拠すべき消費者信用については保証契約自体を禁止している。また、事業者取引については、根保証について第三者保証を禁止している。事前配布資料においては、保証契約自体を禁止するという考え方については触れられていないが、個人保証の一律禁止あるいは第三者保証の一律禁止という考え方も検討すべきである。少なくとも消費者信用については保証を禁止するとともに事業者取引については根保証か否かを問わず第三者保証を禁止するという選択枝は有力なものであると考える。その上で中小零細事業者支援の一環として代表者等経営者保証の制限に更に踏み込むことにより保証に頼らない金融を目指して行くべきである。

II 平成16年の民法改正における審議の状況

1 平成16年民法改正時の諮問事項

平成16年の民法改正は,法務大臣から以下の諮問第66号を受けて審議が始まった。

保証人が過大な責任を負いがちな保証契約について,その内容を適正化するという観点から,根保証契約を締結する場合に限度額や期限を定めるものとするなど,保証制度について見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」

2 国会における審議

(1) 平成16年11月10日の参議院法務委員会の附帯決議

政府は,本法の施行に当たり,次の事項について特段の配慮をすべきである。

一 保証制度の適正化及び民法の現代語化については,いずれも国民生活の日常生活に関連した身近で重要な内容を含んだものであることにかんがみ,その十分な周知徹底に努めること。

二 保証人の保護の在り方については,契約締結後に事情変更があった場合の負担等にも配慮し,法施行後の実施状況を勘案しつつ,引き続き検討を行うこと。

三 貸金等債務のみならず,継続的な商品売買に係る代金債務や不動産賃貸借に係る賃借人の債務を主たる債務とする根保証契約についても,取引の実態を勘案しつつ,保証人を保護するための措置を講じる必要性の有無について検討すること。

四 契約の書面化,根保証期間の制限,極度額の定め等の今回の改正の趣旨が保証人の保護にあることにかんがみ,保証契約の締結に際し,銀行を始めとする融資機関の保証人への説明責任が十分果たされるよう必要な措置を講じること。

五 企業の資金調達の円滑化に資するとの観点から,債権の電子的取扱い等新たな制度に関する法整備についても一層検討をすすめること。

(2) 同月25日の衆議院法務委員会の附帯決議

政府は,本法の施行に当たり,次の事項について格段の配慮をすべきである。

一 根保証契約の適正化については,多数の企業倒産による保証人への責任追及が厳しい現状にかんがみ,個人の保証人が支払能力を超えた保証債務を負担することないよう,金融機関や保証に依存しがちな企業を始め広く国民に対し,特に極度額の設定や保証期間の制限の制度が創設されたことについて,その周知徹底に努めること。

二 根保証契約の適正化にあたっては,担保力に乏しい中小企業者等に対する信用収縮が起きないよう,また,中小企業金融の円滑化が阻害されることのないよう,必要に応じ対応を検討すること。

三 個人の保証人保護の観点から,引き続き,各種取引の実態やそこにおける保証制度の利用状況を注視し,必要があれば,早急に,継続的な商品売買に係る代金債務や不動産賃貸借に係る賃借人の債務など,貸金等債務以外の債務を主たる債務とする根保証契約についても,個人保証人を保護する措置を検討すること。

四 民法の現代語化については,日常生活や経済活動などのあらゆる場面と密接に関連するものであるから,早期に国民全般に浸透するよう,積極的な広報活動を行い,その周知徹底に努めること。

3 貸金等根保証契約の保証人の責任についての規定

民法465条の2第1項は,「保証人が法人であるものを除く」と規定しており,自然人に対する独自の民法上の規律を定めているものである。このように自然人について独自の民法上の制限規定を設けた理由は,「保証人が個人である場合には,それが『消費者』(消費者契約法第2条1項)に該当するこのであるか否かを問わず,予想を超超える過大な責任を追及されることによる生活の破綻という問題を効力する必要があるのに対して,保証人が法人である場合には,生活の破綻という問題が生じない上に,いわゆる機関保証に代表されるように,経済合理性に適った行動をとることが一般的に期待できるという考慮に基づくものである 」とされる。(吉田徹・筒井建夫編著『改正民法の解説』(保証制度・現代語化)商事法務2005年27頁。)

このように,既に現行民法において,保証人については,自然人と法人を分けて,規律しているところであり,自然人独自の保証人保護規定を更に設けることは,現行法との齟齬もなく,加えて,上記の各附帯決議に沿うものであると評し得るものである。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/2003_51.pdf

III  平成16年の民法改正後に金融機関等でとられた保証人保護に関する諸施策

1 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」 平成21年12月「「Ⅲ-3-3-1-2 主な着眼点」( http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/03c1.html)

詳細は,資料(1)のとおりであるが,監督指針において,以下の各点が監督指針として,既に保証人に過度に依存しない金融が指向されていることは明らかである。

(1) 個人保証契約については、保証債務を負担するという意思を形成するだけでなく、その保証債務が実行されることによって自らが責任を負担することを受容する意思を形成するに足る説明を行うこととしているか

(2) 連帯保証契約については、補充性や分別の利益がないことなど、通常の保証契約とは異なる性質を有することを、相手方の知識、経験等に応じて説明することとしているか。

(3) 経営に実質的に関与していない第三者と根保証契約を締結する場合には、契約締結後、保証人の要請があれば、定期的又は必要に応じて随時、被保証債務の残高・返済状況について情報を提供することとしているか

(4) 経営者等に保証を求める場合には、家計と経営が未分離であることや、財務諸表の信頼性に問題があるような中小企業の場合、「経営者の個人保証には、企業の信用補完且つ経営に対する規律付けという機能が認められる」とされる一方、代表者であることをもって一律に保証を求めることについて様々な批判があることを踏まえ、当該経営者と保証契約を締結する客観的合理的理由

(5) 与信取引面における説明態勢については、各銀行の貸付けに関する基本的な経営の方針(クレジットポリシー等)との整合性についても検証する必要がある。

その際、例えば以下のような健全な融資慣行の確立と担保・保証に過度に依存しない融資の促進の観点に留意する。

健全な融資慣行は必ずしも担保・保証に頼ることではなく、貸付けは、借り手の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断して行うものであることを認識し、また、「事業からのキャッシュフローを重視し、担保・保証に過度に依存しない融資の促進を図る」、「第三者保証の利用に当たっては過度なものとならないよう」にするとの観点から、経営の方針としてどのように対応しようとしており、当該方針が実際の説明態勢にどのように反映されているか。

2 中小企業庁における信用保証協会の融資における第三者保証の原則的禁止(資料2)

平成18年3月31日に明らかにされた中小企業庁金融課の見解によると,「中小企業庁では、信用保証協会が行う保証制度(注)について、平成18年度に入ってから保証協会に対して保証申込を行った案件については、経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを、原則禁止とします。」としている。

このように,既に,自然人の保証のうち,いわゆる第三者保証については,原則的に禁止される商慣行が形成され始めているところ,第三者保証と代表者保証の差をどのような基準で設けるべきかが問題となる。そして,通常の場合には,この差は,代表権の有無だけということになろう。しかし,代表権があるか否かで,代表者保証と第三者保証を区別することが可能といえるかが次に問われるべきである。この点は,更に後述する。

3 自然人の保証の金融機関の自己査定基準(資料3)

金融庁の自己査定別表1において債務者区分が記載されているところ,保証について言及されているのは1.債権の分類方法,(1)基本的な考え方において,「債権の査定に当たっては、原則として、信用格付を行い、信用格付に基づき債務者区分を行った上で、債権の資金使途等の内容を個別に検討し、担保や保証等の状況を勘案のうえ、債権の回収の危険性又は価値の毀損の危険性の度合いに応じて、分類を行うものとする。」とし,保証等による調整(1.(5))では,「保証等により保全措置が講じられているものについて、以下のとおり区分し、優良保証等により保全されているものについては、非分類とし、一般保証により保全されているものについては、Ⅱ分類とする。」とされ,個人の保証は一律に一般保証とされている(同②)。

更に,債権の分類基準によると(1.(7))③破綻懸念先について,「一般保証により回収が可能と認められる部分及び仮に経営破綻に陥った場合の清算配当等により回収が可能と認められる部分をⅡ分類」とするとし,「『保証により回収が可能と認められる部分』とは、保証人の資産又は保証能力を勘案すれば回収が確実と見込まれる部分であり、保証人の資産又は保証能力の確認が未了で保証による回収が不確実な場合は、当該保証により保全されていないものとする」としている。

とすれば,この「保証人の資産または保証能力」とは,保証人の現有財産と将来収入相当分であって,これを予め物的担保として徴収すれば,担保による調整(1.(4))により,非分類化できるものである。

このような金融機関の債権の自己査定を考えると,債権者に説明義務を課すのであれば,債権者にとってより負担のない非分類化できる物的保証を前提とする融資を行うべきである。

IV 改正会社法における資本金制度の柔軟化

1 最低資本金制度の廃止

従来,株式会社については,最低資本金として1000万円の資本金の拠出が義務付けられ,平成8年には,この最低資本金を充たさなかったとしてみなし解散することとされ,株式会社においては11万社,有限会社においては34万社がみなし解散とされている。このように,株主等の間接有限責任と会社債権者保護のために,最低資本金制度を設けていたのである。

ところが,改正会社法では,株式会社において株主の有限責任を維持しながら,最低資本金制度を廃止している。この理由について,①少額投資の糾合の必要性,②所有と経営の分離に加えて,閉鎖タイプの会社の株主についても有限責任が認められる理由として,③失敗の可能性が高くても社会的に望ましい企業活動の推進の必要性,④会社債権者の方が株主よりリスク負担能力が勝るケースがあることが理由とされている 。(江頭憲治郎『株式会社法』(第3版)32頁以下。)

2 現行会社法における資本金制度

以上の理由から,資本金制度は,資本維持の原則として,配当制限規定となっている(会社法446条・461条)。そして,純資産300万円未満の場合に余剰金を配当禁止するというだけである(会社法458条)。すなわち,経済活動の主要な活動主体である株式会社について,配当制限として純資産300万円の制限を置くだけというのが我国の会社債権者の保護施策であるということがいえる。

かかる会社債権者保護の施策をとりながら,とりわけ閉鎖会社におて,何故に代表者を中心とした取締役等が,間接有限責任のメリットを一切享受できない連帯保証による融資を受けなければならないのか,再度その必要性が問われなければならない 。(江頭憲治郎『会社法』(第3版)では,「閉鎖タイプの会社の株主は,会社債権者から会社債務に対する連帯保証・物上保証等を求められる例が多いから有限責任の効果を過大に評価すべきではない」とする。しかし,この議論こそ,まさに本末転倒であろう。)

V 自然人が保証人となることが本当に必要なのか。

1 特に問題となる代表者保証について

会社法において,最低資本金制度を配当制限に緩和することを行っている。このように会社債権者の保護を緩和しているながら,何故,一部株主・取締役については代表者保証がなされているのであろうか。

2  自然人の保証人について,最も問題となるのはいわゆる事業者代表者保証である。

事業者代表者保証は,実質的に法人格否認と同様の効果を実現させる,換言すれば法人制度の間接有限責任を事実上否定する機能を有している。そして,これが正当化されるのは,融資側の主たる債務者の情報調査に関するコスト軽減とかかる経営者は自ら情報を把握しており,その意味で説明義務が問題とならないからとされ,同時に経営者の一種の「経営責任」であるとされる 。(平野裕之『保証人保護の判例の総合解説(第2版)』11頁以下)

しかし,このような保証制度については,その機能を更に検討することが必要であり,例えば「新しい中小企業金融の法務に関する研究報告書」 においても「企業が経営困難に陥った場合においても、経営者が保証債務の履行請求を恐れることが、事業再生の早期着手に踏み切れないという傾向を助長し、事業価値の毀損が進むことにより企業の再建が困難となるという問題が指摘されている。このことは、結果として金融機関の債権の回収率の低下にもつながる。また、金融機関が一律又は形式的に保証を徴求するという融資行動をとった場合には、無税償却が認容され難くなることを通じ、スムーズなオフバランス処理を妨げるという支障を生ずることも指摘されている。これは、金融機関の債権償却に際し、保証人の責任を厳格に追求しなければ無税償却が認容され難いという税務上の問題があるので、結果として保証の徴求が、スムーズなオフバランス化を妨げることにつながる場合があるからである。更に、経営者や第三者の保証人は、結果として支払能力を超えた保証債務を負担することが多いため、経営者として再起を図るチャンスを失ったり、社会生活を営む基盤すら失うような悲劇的な結末を迎えるといった現実があることについても看過できない。」としているところである。

I  法制審議会での議論の状況

平成22年3月23日に行われた法制審議会第6回会議における議論

この会議において概略次のような議論がなされている。

以下,その主要な論点を抜粋するが,自然人の保証制度の廃止の可否まで議論されていることは指摘しておきたい。

○中井委員 保証に関しましては,本日机上配布させていただきました「統一消費者信用法要綱案」というのが日弁連としての意見です。これは消費者信用に関する意見書ではありますが,保証一般に通じる問題を指摘させていただいているものと理解しております。したがいまして,消費者契約法ないし消費者契約,消費者信用に関するものを民法にどこまで取り入れるかはともかくとして,まず民法一般,保証一般の議論として,広く消費者信用も含めて御議論いただきたいと思っております。

統計を正確に調べているわけではありませんが,自己破産に至った事例のうち約25%が保証に起因している,個人再生では約16%程度あると聞いています。これら自己破産,個人再生案件の相当割合が保証に起因して起こっているということが第1に指摘すべきことです。

先ほど御指摘がありましたけれども,昨今自殺が3万人を超えると言われておりますけれども,ある統計によれば,そのうち経済苦を理由とするものが約7,000件程度はあるようです。そのうちどの程度が保証に関するものか分かりませんけれども,やはり保証というのがそれなりに一因になっていることは間違いございません。本人が保証債務で苦しんでいるのみならず,親族を保証人にしていることによって,主債務者の方が命でもって弁済をするという悲劇的なことも多く指摘されているところです。

確かにこれまでの日本においては,企業活動を行うに当たって金融という面で個人保証を取るというのが通例ですが,このような事実を考えると,少なくとも自然人保証,個人保証に関してはこれをなくしていく方向性を確認といいますか,認識する必要があるのではないかと思います(以下略)

○藤本関係官 中井委員の補足でございますが,個人保証,また不動産担保というのも並べて論じられることが多いのですが,個人保証,不動産担保に過度に依存しない融資に向けた取 組が行われてきております。動産・債権譲渡担保融資あるいはコベナンツといいますか,財務制限条項を活用した融資の適用が行われてきていると承知しております(以下略)。

○岡田委員 消費者にとって,先ほど大阪弁護士会の方から貸金の保証のことないしはクレジットの保証の件があったのですが,やはり消費者自体が保証人になることで自分にどういう責任が来るかというのがほとんど分かってないという,その状況で連帯保証契約をしてしまうというところに一番大きな原因があるだろうと思います。消費生活センターでは,啓発の中で,保証というのがどういうものだ,加えて連帯保証というのはこういうものですよということを一生懸命いまだに啓発するのですが,一向に理解してもらってない

というか浸透していないというのが現状で,人的保証に関しては,この16年の民法改正のときですか,私なんかは安易に考えて,なくなるのかなと思ったのですが,結局書面にするということで終わってしまっているのですけれども,やはり個人の保証というのは,特に連帯保証は,私たちの立場からすれば廃止してほしいなと思っています。

○野村委員 平成16年改正のときは,中小企業の経営者の個人根保証を規制するというのがその目的で,個人保証全体については議論の対象になっていなかったということもあって,個人保証の全体を見直すことはしておりません。ただ,審議会では,個人保証の保護についても考えるべきではないかという意見はいろいろありまして,例えばフランスでは,保証人自身が手書きで金額と署名をすることが義務付けられているわけですけれども,恐らく今回はそういったことの議論が必要なのではないかと思います。個人保証を禁止するところまで行けるのかどうか分かりませんけれども,保証する人間がそれによってどういう債務を負っているのかということが十分理解できるような仕組みを考えるということが必要ではないかと思っています。

○三上委員 (略)それから,今も個人保証を主に念頭に置いた議論でしたけれども,我々銀行が保証人になる保証,支払承諾という取引もあるわけで,そういう保証取引と個人の保証とが全然問題関係が違うということは異論のないところと思いますので,どちらか一方を基軸に考えると,もう一方にとってはトゥ・マッチとかトゥ・レスになるということは私が言うまでもないことだろうと思っております。そういう意味で,個人保証と法人保証で現行民法は分けているわけですが,そのボーダーラインが個人の中でも経営者や企業オーナーをどう考えるかという点になってきて,これは16年改正のときにも,消費者契約法のときにも議論になった点でございます。こういった保証人の属性によって分かれるということであれば,この法制審 の冒頭でも申しましたように,我々も消費者保護に関してその姿勢を貫くということは重要であることは十分によく理解しておりますので,そのような保証人保護のために詳細な規定を別途設けることは十分に検討に値しますが,保証全体がそれに引きずられて重い制度になって円滑な企業金融に支障が出ても困りますので,現行民法の個人保証関連規定ごと消費者法制の方に移すという選択肢もあるのではないかという点を一つ提案しておきたいと思います。

それから,企業金融の保証の際にも,基本的には経営者とかオーナーというような内部関係者以外の第三者の保証を取ることは我々としても原則抑制して対応しているというのは先ほど御紹介があったとおりなのでございますけれども,では経営者の個人保証をなくしてしまってよいのかという点につきましては,昔から企業経営者を保証人にとるのは経営責任を自覚してもらうためという説明がなされておりまして,この説明自体はちょっと前時代的な説明に聞こえるわけですけれども,では中小企業の財務諸表の信頼性はどこまで改善したのか,あるいは社外流失等に係るコーポレートガバナンスはどの程度機能しているのかといったような点について,会社債権者が現行の会社法ルートを通して経営者の個人責任ないしは法人格否認等の請求をするということに対する判例法のハードルの高さを考えると,あながち前時代的な発想であると決めつけてしまうこともできないのではないかと考えている次第でございます(以下略)

○中井委員 (前略)

残るところは経営者保証という認識を持っております。経営者保証について,もちろん金

融の実務からすれば金融の円滑化のためには必要だ,それにモラルハザードを防ぐためにも必要だという議論は十分理解した上で,他方で,例えば事業再生ですが,経済活性化のために事業再生を円滑に進める場面において,日本ではその手続が大変おくれている,法的倒産手続の早期申立てができない,その主たる原因が経営者の個人保証にあり,経営者個人保証があるがために事業再生のための積極的な手続がとれないとの指摘があります。ベンチャー企業など,新たな企業を興すについても個人保証があることによって,リスクをとった産業 の発展が日本では阻害されているのではないか。大きな視野から言えばそういう問題も含んでいるのではないかと思いますので,併せて御検討いただければと思います。

○高須幹事 (前略)やはり消費者信用にかかわる保証の場合と,事業者に対する保証の場合と,その事業者の場合も,経営者そのものが保証するときと第三者保証の場合と,かなりきめ細かなケースで検討していくことが大切ではないか,どのような保証形態ですかということの中で場合分けをしていくということが一つあり得るかなと。

もう一つの軸としては,根保証という非常に大きな問題を引き起こすものがあり,前回の改正の中でそこに一部制限法理が取り入れられたわけですから,根保証に対する問題というのも,今の消費者信用に関する保証か,事業者に対する保証か,その中の第三者保証かという中にもう一つ織り込んで,場合によっては禁止が望ましいところは禁止していく,禁止まで行かないところでも保証人の保護を考えて一定の保護規定を置いていく,こういうことをしていくという発想が大事ではないか。今伺っている範囲でも,そのこと自体に余り異議があるわけではないのではないか。だから,一つずつ検討していって,ある部分ではもしかしたら保証という行為を禁止できるかもしれないし,ある部分では禁止はしないけれども制限するということもできる。ある意味では金融の円滑化のために比較的保証というものの意義を認めるということができるかもしれない。この方向で検討していくことが大切だろうと思っております。

○道垣内幹事(前略)私はある人の住宅ローンの保証人になったことがあります。その人は私に保証料を払いませんでしたので,ただだったのです。それで私が買うときにそいつに保証人をやらせようと思っておりましたら,改善されたらしくて,必ず保証会社がつくことになりまして,個人保証はつけませんということで,私は保証料を払わされた。私は別に破綻するつもりは基本的になくて,その確率もかなり低かったと思うのですけれども,なぜ私は保証料を払わなければいけないのか,ここに情義的な保証人がいてただで済ませることが できるのになぜなのだろうというのが私は非常に気になったのです。ではそのときには保証をそもそもつけないでいいではないかという話が出ると思うのですが,そうなると逆に,今度は預金者の立場としては,住宅ローンの管理についてそもそも保証をつけていないということはかなり問題であろうと思いますし,私は細かく覚えているわけではございませんけれども,いろいろな与信管理基準の問題との関係でもそれは問題があるのだろうと思います。

(前略)与信そのものを制限すべきであるというお考えなのではないかという気がするのです。個人保証をやめさせることによって,その結果として主債務者に対する与信額を減少させようと考える場合と,主債務者は自分で借りて自分で使っているのだから仕方がない,しかし保証人は保護しようというのとは,かなり論理が違う問題で,主債務者に対する与信を合理的な範囲に制限しようというためには,ただ単に個人保証を廃止するとか,あるいはかなり制約するということが,必ずしもそういう結論,経済的な効果に直結するのかというのはちょっと疑問な感じがします。

○西川関係官 この保証の問題は,先ほどからも幾つか指摘が出ておりますが,消費者問題という観点からは今回の民法改正の中でも一,二を争うぐらい重要な問題だと思っております。連帯保証でありますとか個人保証制度を全廃すべきとかいう非常にドラスティックな見直しをやるべきかどうかということについては,正直まだ決め切れていないところはございますけれども,ただ,その上でできる限りのことはやらなければいけないという感じがしております。(以下略)

○山野目幹事 2点申し上げさせていただきます。

1点目は,議論の進め方との関係で自分なりに思っていることを申し上げさせていただきます(略)。初めから消費者保護法制に移して,というふうな御議論で進んでいくということについては少し危惧を感じます。

少し御紹介しておきたいと思いますけれども,平成16年法のことが何回か話題になりました(略)。私なりにそのとき自分でも一所懸命説明したりしながら考えていたこととして,恐らく,あの平成16年法自体が民法の私法的な規律として完成した内容であったかというと,そうではなくて,あのときの社会経済情勢の中でミニマムの必要なものを提案して通していただいたということでしょうから,あれに更に補わなければいけない,民法の規定自体として補わなければいけないところがあるものと思います。正に今回はそれを検討すべき場面ではないでしょうか。三上委員には恐縮ですが,リターンマッチは来るべくして来る,そういう法律であったと感じます。それと同時に,あのときの議論の中で,提案それ自体に意味があっても,民法の中に含める事柄であろうか,時間をかけて議論してもそうはならないのではないかと感じられたこともございました。したがいまして,提案されている幾つかの事柄を区分けし,一概に消費者が問題だからそちらにというのではなくて,民法に置く規律としてまず何が必要で,加えて消費者保護法制に何かを置くとすればそれは何なのかという順序で御議論いただきたいと感ずるものでございます(以下略)。

○藤本関係官 (略)私どもも資金需要者等の保護が重要だと考えております。業法におきまして保証契約締結前の書面交付などの義務を課しているものがございます。保証引受契約ということで保証契約とは別ルートで保証関係が生じるというルートをつくるということが,資金需要者等の保護の観点から問題がないか,何か悪用されることがないのか,例えば反社会的勢力が保証人として入ってきて債務者に求償権を行使するといったようなことが起きやすくならないかなどという点を含めて慎重に検討されるべきだと考えています。

○道垣内幹事 私が理解しているところの保証引受契約についてお話をしておきたいと思うのですが,現在保証引受契約というものが存在しないのを新たにつくったのかというと,そうではないのですね。併存的債務引受契約というのは以前からあるわけであって,併存的債務引受契約というのをして,そこにおいて債権者が同意をすると,保証と同じような効果が発生してしまうわけです。そして,この新たな類型を設けることによって脱法を許すというのではなくて,この併存的債務引受契約のことを保証引受契約と呼ぶことによって保証人保護の脱法を許さないという性質を持っているものであると考えている次第でありまして,実際,ドイツなどにおきまして保証契約における保証人の保護が強化されたときに,それをすり抜けるために併存的債務引受契約を結ぶことが行われようとしたわけです。したがって,保証人の保護が強化されることを前提としながら,脱法を許さないために置く必要性があるというのが趣旨ではないかと私は理解するところでありますので,私はお二人の発言が意外な感じがしたのですが。

○岡(正)委員 4点申し上げます。

(前略)まず1番目ですが,禁止というのは極めて劇薬です。しかし,特定の極めて狭められたところ,消費者に限るのだと思いますが,やはり禁止すべき類型も小さくてもあるのではないかという思いが非常にしております。だから,禁止というのもあり得る,しかし非常に狭いものだろうというのが第1でございます。

2番目に,手続保証で説明義務をいっぱい書いても,やはり過大な保証というのがどうしても起きてしまう(略)。過大な保証の禁止という実例もあるようですし,比例原則というのもあるわけですので,条文化は非常に難しいと思いますけれども,過大な部分は保証の効果を及ぼせない,そういう実体的な規制を立法化でき たら,これは禁止よりももう少し広い範囲で実現可能ではないかと思います。

3番目に,手続的な規律で説明義務のところが提案されておりまして(略),金額規制で一定程度以上のものについては公証人かつ本人出頭という規制もあっていいのではないかと思いました。

4番目に,今回の詳細版には比較法が随分いっぱい書いてございまして,各国いろいろな工夫をしているというのがよく分かって,大変有益な資料だったと思います。この81ページに,アメリカの規律のようですが,主たる債務者が倒産手続に入った場合,保証人に対する期限の猶予を認めるような工夫があると書いてございました。日本の場合も,主たる債務者が会社更生あるいは民事再生の再建型手続に入っているときには何らかの規律を立法してもよろしいのではないかと思いました。

 

I  保証制度の廃止の可能性

自然人の保証制度を廃止するということについて,以下の点からして,それは十分可能ではないか。

1(必要性1)保証債務締結時(主たる債務者に対して信用供与する時点)で,保証人予定者の個人資産を主たる債務者の責任財産と考えるべきである。

(反論)

主たる債務者に見るべき資産がない場合に,保証債務を負担する第三者の資産を責任財産とする制度としては,保証制度以外に,物的保証を徴収する制度がある。

仮に,物上保証や譲渡担保を設定することが出来れば,担保権設定者となる債権者は,その設定時点での対象物件について,他の保証人の債権者より優先した地位を確保することができ,主たる債務者に見るべき資産がない場合でも,安定的な融資が可能となることは論を俟たない※。同時に,自らの資産を担保提供することに合意するわけであるから,物上保証人にとっても,そのリスクは極めて明確であって,説明義務を特に論じる必要もない。

しかも,主たる債務者が,期限の利益を喪失するまでは,物上保証を行っていたとしても,直ちに当該財産を喪失することはない。

他方,現在の保証制度では,保証人が保証債務を負担していることが公示されることがないため,保証債務が隠れた債務となり,保証人を主債務者とする債権者からすれば、保証債務に対する債権者は突如顕れる債権者となる。

このことは,保証人について相続が発生した場合に顕著であって,被相続人が保証債務を負担していることを知らないまま,相続人が,単純相続をしてしまうと,場合によっては自らの固有財産まで責任を負担せざるを得なくなる。

このように考えると,主たる債務者の債権者にしても,保証という人的担保より,第三者に物的担保を徴収した方が融資も安定的であると同時に,保証人の債権者からしても,物的担保であれば,その多くは公示されることから,信用供与を行う際に目安となる。

しかも,「基本方針」に見られるように,譲渡禁止特約付き債権についても,譲渡担保を徴収する方法を模索するということであれば,今までは担保とされなかった預金などについても,譲渡担保とすることが可能となるのであり,主たる債務者に信用を供与する際に,第三者の財産を物的担保として責任財産とすることが可能となろう。

とすれば,不安定な人的担保である保証制度を,少なくとも自然人との関係で残す必要性は乏しいといえる。

2 必要性2:自然人である保証人の将来収入を担保とする必要性がある。

(反論)

仮に,自然人である保証人について生じる将来収入を担保とする必要があるというのであれば,個人の平均賃金センサスを超えて,自然人が将来収入を得るということは現実的な意味はないというべきである。 他方,主たる債務者の代表者を保証人とする場合には,主たる債務者が少なくとも期限の利益を喪失していることが前提となって履行請求されるのであれば,その事業から得る役員報酬等を前提とした弁済を考えるということは,どのような意味があるであろうか。 少なくとも,その役員報酬を受領して,保証人として弁済するということを想定することは出来ないはずであって,およそ無意味である。

このように考えると,保証制度が,自然人の将来収入を事実上の担保としているのであれば,その実効性は極めて乏しいものであって,仮にこれを廃止したとしても,融資に大きな影響が及ぶとは考えにくい。

とりわけ,将来債権を譲渡担保とすることが可能となると,自然人の将来収入を前提とした融資は,むしろ将来債権の譲渡担保として制度設計すれば足り,保証制度として考える必要性は乏しくなる筈である。

3 必要性3:主たる債務者と保証人の密接な関係から,財産関係の混同を防止するために保証制度が必要である。

(反論)

第1に,主たる債務者の財産,とりわけ流動資産等を債権譲渡担保,動産譲渡担保で把握すれば,混同はそもそも起きないはずである。

第2に,主たる債務者と保証人の財産の混同が問題となるのは,主たる債務者が期限の利益を喪失し,無資力となった後であろう。期限の利益があり,かつ無資力でなければ,債権者が主たる債務者と連帯保証人の関係に容喙するべきではないはずである。

これは,詐害行為取消権をどのように考えて行使すべきかという点とリンクする。仮に,「密接な関係」を前提とするならば,客観的・主観的要件を含めて証明責任を変更することで対応すれば良いのではないか。

加えて,現行会社法は,株主の有限責任を前提とした債権者保護制度である資本金制度を極めて柔軟化し,純資産額が300万円未満の場合に余剰金の配当を禁止する(会社法458条)のみであって,最低資本金の額の定めを廃止している。このように閉鎖会社の株主に対して有限責任を認めているのであれば,なぜ,その代表者が当然のように連帯保証を行う必要があるのか,抜本的に検討することが必要であろう。

この点から考えても,自然人を「連帯」保証人にまでする必要性はどこにあるのかが,疑問である。

2 保証債務の成立 (1) 債務者と保証人との間の契約による保証債務の成立

現行民法の下では,保証債務が成立するには,基本的に債権者と保証人との間で保証契約が締結される必要があるが,実際には,保証契約の締結に先立って,債務者が保証人に保証することを委託し,債務者と保証人との間で保証委託契約が締結される場合が多いとされている。

また,保証と同様の人的担保としての性質を有する併存的(重畳的)債務引受けについては,債務者と引受人との間の第三者のためにする契約(同法第537条)によって成立するとされている。

こうした事情を踏まえ,債務者と保証人との間の契約(保証引受契約)によっても保証債務が成立することを認めるべきとする考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]保証引受で保証債務が発生する制度を設けることは検討に値するが,その際の債権者の権利の発生時期等の詳細については改正試案の内容では不十分であり,さらなる検討を要する。

[理由]債務者の引受による保証債務の制度を設けることの必要性は認められる。しかし,債権者が保証人に対して同意の意思表示をした際に,債権者の権利が発生し,同意には請求も含むこととすると,債権者は保証人に対して確認をせず,保証債務の履行が必要な事態に陥って初めて債権者の権利が確定するというケースも容易に想定できる。この制度では,債権者は,保証時に意思を確認する必要がないことから,保証人の本人確認などを怠ることも懸念される。

2 保証債務の成立 (2) 保証契約締結の際における保証人保護の方策

保証契約については,平成16年の民法改正によって,書面でしなければ効力を生じないものとされている(民法第446条第2項)。これは,保証人保護の観点から,保証を慎重ならしめるため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合に限りその法的拘束力を認めるものとすることが相当であると考えられたことによる。

このような保証契約締結の際における保証人保護の方策については,これをより一層拡充する観点から,保証契約締結の際に,債権者に対して,保証人が保証の意味を理解するのに十分な説明をすることを義務付けたり,主債務者の資力に関する情報を保証人に提供することを義務付けたりすることなどを提案する見解がある。

こうした提案を踏まえ,保証契約締結の際における保証人保護の方策について,どのように考えるか。

[意見]
①保証人が保証の意味を理解するのに十分な説明をすることを義務付けたり、主債務者の資力に関する情報を保証人に提供することを義務付けたりすることについて賛成である。
②この場合の義務は「努力義務」ではなく「法的義務」とすべきであり、義務違反の効力としては取消とすべきである。

[理由]
① 説明義務については、既に金融庁監督指針等で貸主の説明義務・意思確認義務が詳細に定められており、民法上の法的義務とすることに弊害はない。加えて,判例上も,保証協会に主たる債務者の状況につき錯誤があったとして保証契約の成立を否定した事例(東京高判平成19年12月13日判時1992号65頁)や,保証人が主債務者の破産申立てによる期限の利益喪失を知らないまま,債権者との間で保証期間その他の保証条件を変更する合意をした場合に,当該合意が錯誤により無効とされた事例大阪地裁判決平成21年7月29日(判タ1323号192頁),融資の時点で短期間に倒産に至る破綻状態にある債務者のために締結した連帯保証契約には動機の錯誤があり債務者が破綻状態にないことを信じて連帯保証する旨の動機も表示されているとして連帯保証契約が要素の錯誤により無効とされた事例(東京高裁平成17年8月10日判決:判タ1194号159頁)等で明らかなように,実際上は説明義務違反や,不実表示である場合を,動機の錯誤論を利用して,保証契約を無効としている。とすれば,この場合に無効あるいは取消権を認めることに何ら不都合はない筈である。

② 書面要件
現行民法では保証は書面によることとされているが書面の交付までは求めていない。保証人への書面の交付を要件とするとともに、保証の慎重な手続のためには電磁的書面による保証は禁止すべきである(一定以上の金額の保証より禁止することも考えられる)。フランスでは手書が求められている 。公正証書の作成を要件とする立法例もある。(事前配付資料8-2・70頁)

③ 熟慮期間・撤回権
保証人が情義性などから安易な保証契約に拘束されないために書面交付後相当期間における保証契約の撤回権(クーリングオフ)を認めるべきである。

 

(関連論点)

保証契約締結後の保証人保護の方策についても,債権者に対して主債務者の返済状況を保証人に通知する義務を負わせること,分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる場合には保証人にも期限の利益を維持する機会を与えることなど,様々な提案がされている。これらの点について,どのように考えるか。

[意見]
○債権者には保証人に対し主債務者の返済状況を定期的に通知する義務を定めるとともに、返済が滞った場合の通知義務も定めるべきである(身元保証法3条参照・山本敬三前掲434頁)。韓国・フランスにも同様の立法例がある(フランスにつき事前配付資料8-2・73頁参照)。

○分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる場合には保証人にも期限の利益を維持する機会を与えるべきである。保証人が債権者より請求を受ける場合には既に主債務者が期限の利益を喪失し、多額の残債務について遅延損害金を付して一括払を迫られることとなる。主債務者同様の分割払いが許容されるならばなお破綻を免れる場合も存するし、債権者にも不利益はない。期限の利益当然喪失条項そのものの不当条項性という問題も存するが、保証付き融資においては保証人に対する催告と相当期間の経過を期限の利益喪失のための要件とすべきである。

3 保証債務の付従性(民法448条)

民法第448条は,いわゆる保証債務の内容に関する付従性について,保証債務の内容(債務の目的又は態様)が主債務よりも重い場合には,その内容が主債務の限度に減縮されることを規定するが,保証契約が締結された後に主債務の内容が加重された場合の処理については,明文の規定は存在しない。 この点については,保証契約が締結された後に主債務の内容が加重されても,保証債務には影響が及ばないと解されているところ,これを条文上も明らかにすべきであるという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]賛成する。

[理由]現在の解釈を明らかにすることは必要である。

(関連論点)

保証債務の性質については,内容における付従性に関する民法第448条や,補充性に関する同法第452条,第453条といった規定はあるものの,その多くは解釈に委ねられているのが現状である。 この点について,改正提案の中には,付従性や随伴性に関する明文の規定を置くことを提案するものもある(参考資料2[研究会試案]・184頁)が,どのように考えるか。

[意見]付従性や補充性に関する一般的な規定を置くべきである。

[理由]補足説明のとおり。

4 保証人の抗弁等 (1) 保証人固有の抗弁―催告・検索の抗弁

ア 催告の抗弁の制度の要否

民法第452条本文は,債権者が保証人に履行を請求したときに,保証人はまず主債務者に催告するよう請求することができること(催告の抗弁)を規定している。 催告の抗弁の制度については,保証人保護の制度として実効性が乏しいことなどから,これを廃止すべきとする見解もあるが,他方で,保証人保護を後退させる方向で現状を変更すべきでないとする見解もある。 催告の抗弁の制度の要否について,どのように考えるか。

[意見]現行法を維持すべきである。

[理由]保証人保護を後退させることになる。また,保証人を保護し,補充性を維持するとすれば,催告と検索の抗弁は必要である。

イ 催告・検索の抗弁の効果(民法455条)

民法455条は,催告の抗弁又は検索の抗弁を行使された債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主債務者から全部の弁済を得られなかっ た場合には,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得るこ とができた限度において,その義務を免れることを規定する。この規定の趣 旨は,債権者の懈怠による弁済額の減少については,保証人の責任を免ずる べきであるということにある。 この規定については,その趣旨を拡大して,債権者が主債務者の財産に対 して適時に執行をすることを怠ったために主債務者からの弁済額が減少し た場合一般に適用される規定に改めるべきとする見解もあるが,どのように 考えるか。

[意見]適時執行義務を課することに賛成する。

[理由]期限の利益を喪失した後は,主たる債務者は一括弁済を迫られているのであり,また,債権者はその権能を前提として主たる債務者と弁済を交渉すべきである。とすれば,主たる債務者の期限の利益喪失について帰責性が全くない保証人については,債権者と主たる債務者の交渉などといった自らに関係しない事由により,自己の財産に対する債権者の回収の額や程度が異なるということを正当化される理由はない。 よって,適時執行義務を課すべきである。なお,これについては,むしろ主たる債務者に対する債権の回収を阻害するということが主張されているが,仮に,適時執行しなかったことを保証人との間で正当化したければ,債権者が,保証人との間で,新たに適時執行義務を履行しないことの合意を得れば足りることであり,何ら問題はない

4 保証人の抗弁等 (2) 主たる債務者に生じた事由に基づく抗弁(民法457条)

民法第457条第2項は,保証人は,主債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができると規定している。 この規定については,保証人が主債務者の有する債権を用いて相殺の意思表示ができると解する見解もあるが,一般には,他人である主債務者の債権の処分権限まで保証人に認めるのは過大であるとして,保証人は相殺によって主債務が消滅する限度で履行を拒絶できるにとどまると解されている。 そこで,この一般的理解を前提に,保証人は主債務者の債権による相殺によって主債務が消滅する限度で履行を拒絶できるにとどまることを明文化するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]相殺により主たる債務が消滅する限度で履行を拒絶するということを明文の規定で定めることに賛成。

[理由]補足説明のとおり。

(関連論点)

現行民法は,主債務者が債権者に対して相殺権を有する場合についての規定を置くのみ(同法第457条第2項)であり,主債務者がその余の抗弁を有している場合については,解釈に委ねられているのが現状である。 この点に関して,保証人は,保証債務の付従性に基づき,債務者の有する抗弁権を援用することができると解されており,また,主債務者が取消権又は解除権を有する場合には,保証人は,取消権又は解除権が行使されるかどうかが確定されるまでの間は,保証債務の履行を拒絶できると解されている。 また,持分会社における社員は,一定の場合に持分会社の債務を弁済する責任を負う点で,保証人に類似した立場に置かれている(会社法第580条参照)ところ,会社法第581条第1項は,社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合に,社員は持分会社が主張することができる抗弁をもって持分会社の債権者に対抗することができると規定し,また,同条第2項は,持分会社がその債権者に対して取消権又は解除権を有するときには,社員は債権者に対して債務の履行を拒むことができると規定している。 そこで,会社法第581条第1項及び第2項の規定を参考にしつつ,上記の解釈を明文化するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]保証人のその他の解釈上の抗弁権を明文の規定とすることに賛成。

[理由]補足説明のとおり。

5 保証人の求償権 (1) 委託を受けた保証人の事後求償権(民法459条)

民法第459条第1項は,委託を受けた保証人が弁済等によって主債務を消滅させた場合の事後求償権について規定しているところ,委託を受けた保証人が期限前弁済をした場合については,委託の趣旨に反することがあることから,委託を受けない保証人の事後求償権と同内容のもの(同法第462条第1項参照)で足りるとする見解がある。 この点について,どのように考えるか。

[意見]賛成する。

[理由]補足説明のとおり。

5 保証人の求償権 (2) 委託を受けた保証人の事前求償権(民法460条・461条)

民法第460条は,委託を受けた保証人が事前求償権を行使することができることについて定めるが,仮に,同法第455条を債権者が主債務者の財産に対して適時に執行をすることを怠ったために主債務者からの弁済額が減少した場合一般に適用される規定に改める場合(前記4(1)イ参照)には,委託を受けた保証人に事前求償権を認める必要性は失われるとの指摘もある。 この点について,どのように考えるか。

[意見]委託保証人の事前求償権は必要は無いというべきである。

[理由]補足説明のとおりである。

なお,補足説明4の保証会社が事前求償権を行うことが必要であるという反論は,保証会社を取立機関とするということを前提とするものであって,このような保証会社の取り立て行為を幅広く認めることは,保証会社の存在意義すら疑問を呈さざるを得ないものである(実質的には弁護士法72条の潜脱を意図しているとしか言い得ない)。

5 保証人の求償権 (3) 委託を受けた保証人の通知義務(民法463条)

民法第463条第1項は,求償権を行使しようとする連帯債務者の事前・事後の通知義務に関する規定である同法第443条を準用しているところ,連帯債務においては,連帯債務者は,履行期が到来すれば直ちに弁済をしなければならない立場にあるのであるから,その際に事前通知を義務付けるのは相当ではないとして,事前通知義務を廃止するかどうかが検討されている(前記第12(2)ウ(イ)参照)。 連帯債務者の事前通知義務の存廃に関して指摘されている理由は,委託を受けた保証人についても該当し得るものであることから,委託を受けた保証人についても,事前通知義務を廃止するかどうかを検討することが考えられるが,どうか。

[意見] 賛成する。

[理由] 連帯債務とおなじ。

5 保証人の求償権 (4) 委託を受けない保証人の通知義務(民法463条)

民法第463条第1項は,求償権を行使しようとする連帯債務者の事前・事後の通知義務に関する規定である同法第443条を準用している。 ところで,事前通知義務の趣旨は,債権者に対抗することができる事由を有している主債務者に対し,それを主張する機会を与えようとすることにあるところ,委託を受けない保証人については,もとよりその求償権の範囲は,主債務者が「その当時利益を受けた限度」(同法第462条第1項)又は「現に利益を受けている限度」(同条第2項)においてしか認められておらず,主債務者が債権者に対抗できる事由を有している場合には,それについては「利益を受けている限度」から除外されることになるため,事前通知義務の存在意義は乏しい。 そこで,委託を受けない保証人については,事前通知義務を廃止するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 賛成する。

[理由] 補足説明のとおり。

6 共同保証―分別の利益

民法第456条は,複数の保証人が保証債務を負担する場合(共同保証)に,各共同保証人は,原則として頭数で分割された保証債務を負担するに過ぎないことを規定する(分別の利益)。

しかし,これに対しては,債権者は,保証の担保的効力を強めることを期待して保証人の数を増やすはずであるのに,この規定が適用される結果として,一人の保証人に対して全部の履行を請求することができなくなるばかりか,共同保証人の中に無資力の者がいると,その部分の担保を失うことにもなり,かえって保証の担保的効力が弱くなるという問題点が指摘されている。

このような観点からは,分別の利益を認めずに,数人の保証人があるときには,各共同保証人は全額について債務を保証する(保証連帯)こととするという考え方があるが,他方で,保証人保護を後退させる方向で現状を変更すべきでないとする見解もある。 この点について,どのように考えるか。

[意見] 共同保証における分別の利益制度は維持すべきである。

[理由] 保証契約をどのような法形式でとるべきかという問題であり,分別の利益を否定する必要は無い。

7 連帯保証 

(1) 連帯保証制度のありかた

連帯保証人は,催告・検索の抗弁が認められず,また,分別の利益も認められないと解されている点で,連帯保証ではない通常の保証人よりも不利な立場にあるが,このような連帯保証制度が存在することについて,保証人保護の観点から問題があるという指摘がある。 実際の取引において保証が用いられる場合のほとんどは連帯保証であるといわれているが,連帯保証制度に対するこうした指摘を踏まえ,その制度の在り方や見直すべき点についてどのように考えるか。

[意見] 自然人は,保証能力を否定するべきであることは既に述べたところであるが,少なくとも「連帯」保証は否定すべきである。

[理由] 実務上,不動文字で連帯保証人とするということが,補充性を前提とした保証という一般的な意識と乖離がある。従って,原則として自然人の保証を否定するべきであるとともに,「連帯」保証人となることは否定すべきである。また,既に述べた自己査定に関しても「連帯」の有無で査定を変えているものではない。

連帯保証は,連帯まですることのリスクを十分に把握できる機関保証に限定するべきである。

(2) 連帯保証人に生じた事由の効力

民法第458条は,連帯保証人について生じた事由の効力について,連帯債務者の一人について生じた事由の効力等に関する同法第434条から第440条までの規定を準用している。もっとも,連帯保証人には,連帯債務者と異なり負担部分がないことなどから,実質的に準用の意義を有するのは,履行の請求が絶対的効力事由であることを規定する同法第434条のみであるとされている。

しかし,連帯保証人に対する履行の請求の効果が主債務者にも及ぶものとすること(同法第458条,第434条)に対しては,主債務者の関与しない連帯保証契約によって主債務者が不利益を受けるのは不当であるとの批判もある。 この点について,どのように考えるか。

[意見] 連帯保証人に対する履行の請求が主たる債務者に及ぶことは反対。

[理由] 主たる債務者の関与しない連帯保証人を徴収することで,その連帯保証人に対する効力が主たる債務者に及ぶというのは不当である。

8 根保証

根保証に関しては,平成16年の民法改正により,主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれるもの(貸金等根保証契約)に対象を限定しつつ,保証人が予想を超える過大な責任を負わないようにするための規定が新設されたところである(同法第465条の2から第465条の5まで)。

この点については,さらに保証人保護を拡充する観点から,例えば,主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれない根保証にまで,平成16年改正で新設された規定を及ぼすという考え方や,判例によって認められているいわゆる特別解約権を明文化するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 根保証の被担保債権を貸金等根保証契約以外の金銭債権に広げるべきことは賛成する。 また,元本確定事由として現行法は不十分であるため,一般的な確定事由を規定すべきである。 同時に,民法398条の7と同様の規定を設けるべきである。

[理由] 根保証契約の被担保債権については,貸金等以外にも想定しうるところ,かかる債権についても保証人を保護すべき点は同様である。よって,これを一般的に広げるべき点は当然である。また,元本確定事由ににつては,現在の規定以外にはおよそ確定事由が存しないと解される余地もあり,極めて不十分である。よって,一般的な確定事由を規定するべきである。

更に,根保証の場合,主たる債務者に対する債権が譲渡された場合に,随伴性を有するか否かについて,明確な規律がない。理論的には,確定前の根保証の場合,根抵当権と同様に随伴性が無いと解すべきであるが,明文の規定を欠いており不十分である。 よって,この点も明確にすべきである。

保証問題を検討する際に,参照すべき判例について

参考判例

1. 連帯保証人となっていた代表者に対する債権者からの請求が,権利の濫用となるとされた事例

最判平成22年1月29日(裁判所時報1501号73頁)
A社の財務部門を法人化して設立され,A社を中核とするグループに属するX社が,上記グループに属するB社に金員を貸し付け,B社の代表取締役であるYがこの貸付けに係るB社の借入金債務を保証した場合において,B社が既に事業を停止している状況下で,X社がYに対して保証債務の履行を請求することが権利の濫用に当たるとされた事例

2. 保証協会に主たる債務者の状況につき錯誤があったとして保証契約の成立を否定した事例(東京高判平成19年12月13日判時1992号65頁)

企業実体のない会社の金融機関からの借入れについて、金融機関の依頼に基づき保証契約を締結した信用保証協会の意思表示に要素の錯誤があり、その錯誤について重大な過失があったとはいえないとされた事例

第三者の詐欺により意思表示に要素の錯誤が生じた場合と民法96条2項・3項の適用又は類推適用(消極)

3. 保証人が主債務者の破産申立てによる期限の利益喪失を知らないまま,債権者との間で保証期間その他の保証条件を変更する合意をした場合に,当該合意が錯誤により無効とされた事例
大阪地裁判決平成21年7月29日(判タ1323号192頁)

4. 融資の時点で短期間に倒産に至る破綻状態にある債務者のために締結した連帯保証契約には動機の錯誤があり債務者が破綻状態にないことを信じて連帯保証する旨の動機も表示されているとして連帯保証契約が要素の錯誤により無効とされた事例(東京高裁平成17年8月10日判決:判タ1194号159頁)

5. 商品代金の立替払契約に基づく債務の保証人の意思表示に要素の錯誤があるとされた事例(最判平成14年7月11日裁判集206号707頁)
特定の商品の代金について立替払契約が締結され、同契約に基づく債務について保証契約が締結された場合において、立替払契約は商品の売買契約が存在しないいわゆる空クレジット契約であって、保証人は、保証契約を締結した際、そのことを知らなかったなど判示の事実関係の下においては、保証人の意思表示には法律行為の要素に錯誤がある。

以 上

 

資料1

[参考]金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」[1]平成21年12月「「Ⅲ-3-3-1-2 主な着眼点」

①契約時点等における説明

以下の事項について、社内規則等を定めるとともに、従業員に対する研修その他の当該社内規則に基づいて業務が運営されるための十分な体制が整備されているか検証する。

①商品又は取引の内容及びリスク等に係る説明

契約の意思形成のために、顧客の十分な理解を得ることを目的として、必要な情報を的確に提供することとしているか。

なお、検証に当たっては、特に以下の点に留意する…

ハ.個人保証契約については、保証債務を負担するという意思を形成するだけでなく、その保証債務が実行されることによって自らが責任を負担することを受容する意思を形成するに足る説明を行うこととしているか。

例えば、保証契約の形式的な内容にとどまらず、保証の法的効果とリスクについて、上記イ.のデリバティブを含む融資取引と同様に、最良のシナリオだけでなく、最悪のシナリオ即ち実際に保証債務を履行せざるを得ない事態を想定した説明を行うこととしているか。

また、必要に応じ、保証人から説明を受けた旨の確認を行うこととしているか。

ニ.連帯保証契約については、補充性や分別の利益がないことなど、通常の保証契約とは異なる性質を有することを、相手方の知識、経験等に応じて説明することとしているか。

(注1) 「補充性」とは、主たる債務者が債務を履行しない場合にはじめてその債務を履行すればよいという性質をいう。

(注2) 「分別の利益」とは、複数人の保証人が存在する場合、各保証人は債務額を全保証人に均分した部分(負担部分)についてのみ保証すれば足りるという性質をいう。

ホ.経営に実質的に関与していない第三者と根保証契約を締結する場合には、契約締結後、保証人の要請があれば、定期的又は必要に応じて随時、被保証債務の残高・返済状況について情報を提供することとしているか。

ヘ.信用保証協会の保証付き融資については、利用する保証制度の内容や信用保証料の料率などについて、顧客の知識、経験等に応じた適切な説明を行うこととしているか。

②契約締結の客観的合理的理由の説明

顧客から説明を求められたときは、事後の紛争等を未然に防止するため、契約締結の客観的合理的理由についても、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行う態勢が整備されているか。

なお、以下のイ.からハ.の検証に関しては、各項に掲げる事項について顧客から求められれば説明する態勢が整備されているかに留意する。

イ.貸付契約

貸付金額、金利、返済条件、期限の利益の喪失事由、財務制限条項等の契約内容について、顧客の財産の状況を踏まえた契約締結の客観的合理的理由

ロ.担保設定契約

極度額等の契約内容について、債務者との取引状況や今後の取引見通し、担保提供者の財産の状況を踏まえた契約締結の客観的合理的理由

ハ.保証契約

保証人の立場及び財産の状況、主債務者や他の保証人との関係等を踏まえ、当該保証人との間で保証契約を締結する客観的合理的理由

a.根保証契約については、設定する極度額及び元本確定期日について、主債務者との取引状況や今後の取引見通し、保証人の財産の状況を踏まえた契約締結の客観的合理的理由

b.経営に実質的に関与していない第三者との間で保証契約を締結する場合には、そのような第三者に保証を求めること自体に批判があることを踏まえ、当該第三者と保証契約を締結する客観的合理的理由

c.経営者等に保証を求める場合には、家計と経営が未分離であることや、財務諸表の信頼性に問題があるような中小企業の場合、「経営者の個人保証には、企業の信用補完且つ経営に対する規律付けという機能が認められる」とされる一方、代表者であることをもって一律に保証を求めることについて様々な批判があることを踏まえ、当該経営者と保証契約を締結する客観的合理的理由

[③契約の意思確認]

イ.契約の内容を説明し、借入意思・担保提供意思・保証意思があることを確認した上で、行員の面前で、契約者本人(注)から契約書に自署・押印を受けることを原則としているか。

また、例外的な書面等による対応については、顧客保護及び法令等遵守の観点から十分な検討を行った上で、社内規則等において明確に取扱い方法を定め、遵守のための実効性の高い内部けん制機能が確立されているか。

(注) いわゆる「オーナー経営」の中小企業等との重要な契約に当たっては、形式的な権限者の確認を得るだけでは不十分な場合があることに留意する必要がある。

ロ.a.いわゆる捨印慣行の不適切な利用、及びb.契約の必要事項を記載しないで自署・押印を求め、その後、行員等が必要事項を記載し書類を完成する等の不適切な取扱いを防止するため、実効性の高い内部けん制機能が確立されているか。

ハ.銀行として貸付の決定をする前に、顧客に対し「融資は確実」と誤認させる不適切な説明を行わない態勢が整備されているか。

④契約書等の書面の交付

貸付契約、担保設定契約又は保証契約を締結したときは、原則として契約者本人に契約書等の契約内容を記載した書面を交付することとしているか。

なお、検証に当たっては、特に以下の点に留意する。

イ.銀行取引約定書は、双方署名方式を採用するか、又はその写しを交付することとしているか。

ロ.貸付契約書、担保設定契約書及び保証契約書については、その写しを交付すること等により、顧客が契約内容をいつでも確認できるようになっているか。

ハ.取引の形態から貸付契約の都度の契約書面の作成が馴染まない手形割引、手形貸付については、契約条件の書面化等、契約面の整備を適切に行うことにより顧客が契約内容をいつでも確認できるようになっているか。

(3)貸付けに関する基本的な経営の方針(クレジットポリシー等)との整合性

与信取引面における説明態勢については、各銀行の貸付けに関する基本的な経営の方針(クレジットポリシー等)との整合性についても検証する必要がある。

その際、例えば以下のような健全な融資慣行の確立と担保・保証に過度に依存しない融資の促進の観点に留意する。

健全な融資慣行は必ずしも担保・保証に頼ることではなく、貸付けは、借り手の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断して行うものであることを認識し、また、「事業からのキャッシュフローを重視し、担保・保証に過度に依存しない融資の促進を図る」、「第三者保証の利用に当たっては過度なものとならないよう」にするとの観点から、経営の方針としてどのように対応しようとしており、当該方針が実際の説明態勢にどのように反映されているか。

[1] http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/03c1.html

 

資料2

http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2006/060331daisanshahoshou_kinshi.htm

信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について

平成18年3月31日

中小企業庁金融課

金融機関が中小企業に融資を行う際に、この企業の経営に直接関係のない第三者を保証人として求める商慣行については、現在は減少傾向にあるものの、今なお存在しております。

事業に関与していない第三者が、個人的関係等により、やむを得ず保証人となり、その後の借り手企業の経営状況の悪化により、事業に関与していない第三者が、社会的にも経済的にも重い負担を強いられる場合が少なからず存在することは、かねてより社会的にも大きな問題とされてきております。

このため、中小企業庁では、信用保証協会が行う保証制度(注)について、平成18年度に入ってから保証協会に対して保証申込を行った案件については、経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを、原則禁止とします。

ただし、下記のような特別な事情がある場合については、例外とします。なお、地方自治体の制度融資で第三者保証人が必要と定められているものについては、平成18年度のできるだけ早い時期に見直すこととします。

 

(注)信用保証制度とは、信用保証協会が債務保証をすることにより、中小企業者の信用力を補完し、主に民間金融機関からの融資を受けやすくする制度。

 

1.        実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者本人の配偶者(当該経営者本人と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が連帯保証人となる場合

2.        経営者本人の健康上の理由のため、事業承継予定者が連帯保証人となる場合

3.        財務内容その他の経営の状況を総合的に判断して、通常考えられる保証のリスク許容額を超える保証依頼がある場合であって、当該事業の協力者や支援者から積極的に連帯保証の申し出があった場合(ただし、協力者等が自発的に連帯保証の申し出を行ったことが客観的に認められる場合に限る。)

 

 

民法改正(債権関係・債権法)に関する意見書です。ご自由にご覧ください。