Home > 第2 保証債務 > 2 保証債務の成立

2 保証債務の成立 (1) 債務者と保証人との間の契約による保証債務の成立

現行民法の下では,保証債務が成立するには,基本的に債権者と保証人との間で保証契約が締結される必要があるが,実際には,保証契約の締結に先立って,債務者が保証人に保証することを委託し,債務者と保証人との間で保証委託契約が締結される場合が多いとされている。

また,保証と同様の人的担保としての性質を有する併存的(重畳的)債務引受けについては,債務者と引受人との間の第三者のためにする契約(同法第537条)によって成立するとされている。

こうした事情を踏まえ,債務者と保証人との間の契約(保証引受契約)によっても保証債務が成立することを認めるべきとする考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]保証引受で保証債務が発生する制度を設けることは検討に値するが,その際の債権者の権利の発生時期等の詳細については改正試案の内容では不十分であり,さらなる検討を要する。

[理由]債務者の引受による保証債務の制度を設けることの必要性は認められる。しかし,債権者が保証人に対して同意の意思表示をした際に,債権者の権利が発生し,同意には請求も含むこととすると,債権者は保証人に対して確認をせず,保証債務の履行が必要な事態に陥って初めて債権者の権利が確定するというケースも容易に想定できる。この制度では,債権者は,保証時に意思を確認する必要がないことから,保証人の本人確認などを怠ることも懸念される。

2 保証債務の成立 (2) 保証契約締結の際における保証人保護の方策

保証契約については,平成16年の民法改正によって,書面でしなければ効力を生じないものとされている(民法第446条第2項)。これは,保証人保護の観点から,保証を慎重ならしめるため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合に限りその法的拘束力を認めるものとすることが相当であると考えられたことによる。

このような保証契約締結の際における保証人保護の方策については,これをより一層拡充する観点から,保証契約締結の際に,債権者に対して,保証人が保証の意味を理解するのに十分な説明をすることを義務付けたり,主債務者の資力に関する情報を保証人に提供することを義務付けたりすることなどを提案する見解がある。

こうした提案を踏まえ,保証契約締結の際における保証人保護の方策について,どのように考えるか。

[意見]
①保証人が保証の意味を理解するのに十分な説明をすることを義務付けたり、主債務者の資力に関する情報を保証人に提供することを義務付けたりすることについて賛成である。
②この場合の義務は「努力義務」ではなく「法的義務」とすべきであり、義務違反の効力としては取消とすべきである。

[理由]
① 説明義務については、既に金融庁監督指針等で貸主の説明義務・意思確認義務が詳細に定められており、民法上の法的義務とすることに弊害はない。加えて,判例上も,保証協会に主たる債務者の状況につき錯誤があったとして保証契約の成立を否定した事例(東京高判平成19年12月13日判時1992号65頁)や,保証人が主債務者の破産申立てによる期限の利益喪失を知らないまま,債権者との間で保証期間その他の保証条件を変更する合意をした場合に,当該合意が錯誤により無効とされた事例大阪地裁判決平成21年7月29日(判タ1323号192頁),融資の時点で短期間に倒産に至る破綻状態にある債務者のために締結した連帯保証契約には動機の錯誤があり債務者が破綻状態にないことを信じて連帯保証する旨の動機も表示されているとして連帯保証契約が要素の錯誤により無効とされた事例(東京高裁平成17年8月10日判決:判タ1194号159頁)等で明らかなように,実際上は説明義務違反や,不実表示である場合を,動機の錯誤論を利用して,保証契約を無効としている。とすれば,この場合に無効あるいは取消権を認めることに何ら不都合はない筈である。

② 書面要件
現行民法では保証は書面によることとされているが書面の交付までは求めていない。保証人への書面の交付を要件とするとともに、保証の慎重な手続のためには電磁的書面による保証は禁止すべきである(一定以上の金額の保証より禁止することも考えられる)。フランスでは手書が求められている 。公正証書の作成を要件とする立法例もある。(事前配付資料8-2・70頁)

③ 熟慮期間・撤回権
保証人が情義性などから安易な保証契約に拘束されないために書面交付後相当期間における保証契約の撤回権(クーリングオフ)を認めるべきである。

 

(関連論点)

保証契約締結後の保証人保護の方策についても,債権者に対して主債務者の返済状況を保証人に通知する義務を負わせること,分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる場合には保証人にも期限の利益を維持する機会を与えることなど,様々な提案がされている。これらの点について,どのように考えるか。

[意見]
○債権者には保証人に対し主債務者の返済状況を定期的に通知する義務を定めるとともに、返済が滞った場合の通知義務も定めるべきである(身元保証法3条参照・山本敬三前掲434頁)。韓国・フランスにも同様の立法例がある(フランスにつき事前配付資料8-2・73頁参照)。

○分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる場合には保証人にも期限の利益を維持する機会を与えるべきである。保証人が債権者より請求を受ける場合には既に主債務者が期限の利益を喪失し、多額の残債務について遅延損害金を付して一括払を迫られることとなる。主債務者同様の分割払いが許容されるならばなお破綻を免れる場合も存するし、債権者にも不利益はない。期限の利益当然喪失条項そのものの不当条項性という問題も存するが、保証付き融資においては保証人に対する催告と相当期間の経過を期限の利益喪失のための要件とすべきである。

民法改正(債権関係・債権法)に関する意見書です。ご自由にご覧ください。