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2 債務者が複数の場合 (2)連帯債務 イ 連帯債務者の1人について生じた事由の効力

現行民法は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかという点について,相対的効力を原則としつつも(同法第440条),多くの絶対的効力事由を定めている(同法第434条から第439条まで)。 この絶対的効力事由のうち,相殺(同法第436条第1項)及び混同(同法第438条)については,絶対的な効力を生ずることに特段の異論はない。 また,それ以外の事由についても,現行法の規定内容を実質的に改正する必要はないという考え方も提示されている。 他方で,連帯債務は一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するところ,絶対的効力事由が多いことは連帯債務の担保的効力を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するのではないかという問題も指摘されている。また,法律の規定により連帯債務とされるもののうち共同不法行為者が負担する損害賠償債務(同法第719条)については,判例・学説は,いわゆる不真正連帯債務として絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がないとしている。 以上を踏まえ,現行法が定める絶対的効力事由の見直しの要否について,どのように考えるか。

[意見] 連帯債務の絶対事由の見直しは必要であり,事由を絞り込むべきであると考える。連帯債務者相互間に絶対的効力事由を生じさせるべきといえるだけの関係があるとはいいにくいので,債務者間に一定の関係がある場合に限って絶対的効力を生じさせる等の検討が必要である。 なお,福岡での検討では,連帯債務について,現行法を変更する積極的な立法事実が存在しないとして,現行法のとおりで良いという意見があり,同様に債権の効力を徹底する観点から,弁済などの絶対的債権消滅事由以外については,全て相対効としておくべきであるという意見もあった。 よって,連帯債務関係について,現段階で福岡での検討結果を一つの見解としてまとめることは出来ず,相対的に多数であったと思われる意見を記載するに留まる。

(ア) 履行の請求

民法第434条は,連帯債務者の一人に対する履行の請求について,絶対的効力を認めている。 これは,連帯債務の担保的機能を強化する方向に作用し,債権者に有利なものであるが,他方で,請求を受けていない連帯債務者に不測の損害を与えるおそれがあるとの問題も指摘されている。 そこで,履行の請求を絶対的効力事由とはしないという考え方や,絶対的効力事由となる場面を限定すべきであるという考え方などが提示されているが,この点について,どのように考えるか。

[意見] 履行請求については相対的効力に留めるべきである。

[理由] 実際には履行請求を受けていない連帯債務者についてまで,履行遅滞に陥るというのは妥当ではない。従って,債務は別個独立であるという原則に一旦立ち戻り,絶対的効力を生じさせるべき場面はどのような場面か再検討すべきである。とすれば,意思表示で相互に連帯債務関係になったというだけで,他の連帯債務者に履行の請求がなされているかを確認しあわなければならないという負担を連帯債務者相互が負うというのは,過大な負担となろう。 なお,「基本方針」による「連帯債務者の間に協働関係がある場合」に限定して絶対効を生じさせるという考え方も検討に値するが,「協働関係の有無」を債権者と債務者が別個に判断する必要もあり,むしろ混乱することも考えられる。よって,履行請求については相対的効力とすべきである。

(イ) 債務の免除

民法第437条は,連帯債務者の一人に対する債務の免除について,その連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を認めている。 この点については,連帯債務者の一人に対して債務の免除をする場合の債権者の通常の意思に反すると指摘して,相対的効力にとどめるべきである(負担部分についての絶対的効力を生じさせるためには,他の連帯債務者との関係で債権者がその旨の免除をすればよい)とする考え方が提示されているが,どのように考えるか。

[意見] 相対的効力に留めるべきである。

[理由] 相対的免除が可能であることを考えると,相対的効力としても差し支えはないと考えられる。

(ウ) 更改

民法第435条は,連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅すると規定する。 この点については,連帯債務者の一人との間で更改をする場合の債権者の通常の意思に反すると指摘して,相対的効力にとどめるべきであるとする考え方が提示されているが,どのように考えるか。

[意見] 相対的効力に留めるべきである。

[理由] 部会資料に呈示されている考え方のとおり。

(エ) 時効の完成

民法第439条は,連帯債務者の一人について時効(消滅時効)が完成した場合に,その連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を認めている。 この点についても,連帯債務の担保的機能を弱める方向に作用する絶対的効力事由をできる限り少なくする等の観点から,相対的な効力にとどまるものとする考え方がある。もっとも,このような考え方に立つとしても,時効が完成した連帯債務者に対して,その後に弁済等をした他の連帯債務者が求償できることとすると,時効制度の趣旨との関係で問題を生じることから,この求償を制限する(その限度で他の連帯債務者にも影響が及ぶものとする)かどうかをさらに検討する必要がある。この点について,どのように考えるか。

[意見] 時効完成の効力は原則として相対的なものとすべきであるとの意見が多かった。しかし,時効の効果について,仮に基本方針のような効果に留めるとすると,実体的に債権が消滅するというより履行拒絶ということになるのではないかということから,連帯債務者の一人について,消滅時効が完成した場合には,他の連帯債務者はその負担部分につき,少なくとも支払いを拒絶することが出来るものとすべきであるという見解もあった。

[理由] 相対的効力に留まるという見解は,連帯債務の担保的効力の強化,また,債務者にとっても他の債務者に生じた事由による利益の享受を受けられなくなるということに留まるのみであることから,相対的効力にとどまるべきであると考えられる。 他方,消滅時効制度を実体的な債権消滅という効果をもたらすものと考えるのか否かという点から今回の債権関係が論じるとなると,時効完成の効力が実体的な債権消滅につながらない場合の求償関係を再度検討する必要があるとして,現段階でのこの効力をどう考えるべきかは,再検討が必要という意見もあった。

(オ) 他の連帯債務者による相殺権の援用(民法436条2項)

判例は,民法第436条第2項の規定に基づき,連帯債務者が他の連帯債務者の有する債権を用いて相殺の意思表示をすることができるとしているが,このような帰結に対しては,連帯債務者の間では他人の債権を処分することができることになり不当であるとの指摘がされており,学説上,同項の規定は,相殺権を有する連帯債務者の負担部分の範囲で他の連帯債務者は弁済を拒絶することができる旨を定めたものであるとする見解が有力である。また,同項の規定については,仮に有力学説のように理解するとしても合理性に乏しいとして,これを廃止するという見解も提示されている。 このような状況を踏まえ,債権者に対して債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない場合の規律については,どのような方向で見直しをすることが相当であるか。

[意見] 廃止すべきであるという意見もあったが,同時に抗弁権説で明文化すべきであるとの意見もあった。

[理由] 連帯債務者が他の連帯債務者の債権を相殺で消滅させるというのは,私的自治に反するところから,436条2項そのものを削除すべきであるという意見があった。同時に,436条2項の立法趣旨である求償の循環の回避や反対債権を有する連帯債務者を債権者の無資力の危険から保護するという趣旨は妥当性があるとして,抗弁権説を明文化すべきであるという意見もあった。

(カ) 破産手続の開始

民法第441条は,連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときに,債権者がその債権の全額について各破産財団の配当に加入することができるとしている。 しかし,この規律は,破産手続における債権者間の公平を図ることを目的とするものであって,必ずしも民法において規定されなくてはならないものではなく,また,全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合の破産手続への参加については,破産法第104条第1項に規定が設けられており,実際に民法第441条が適用される場面は存在しない。 そこで,民法第441条については,これを削除するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見] 削除すべき。

[理由] 補足説明のとおり。

民法改正(債権関係・債権法)に関する意見書です。ご自由にご覧ください。