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4 保証人の抗弁等 (1) 保証人固有の抗弁―催告・検索の抗弁

ア 催告の抗弁の制度の要否

民法第452条本文は,債権者が保証人に履行を請求したときに,保証人はまず主債務者に催告するよう請求することができること(催告の抗弁)を規定している。 催告の抗弁の制度については,保証人保護の制度として実効性が乏しいことなどから,これを廃止すべきとする見解もあるが,他方で,保証人保護を後退させる方向で現状を変更すべきでないとする見解もある。 催告の抗弁の制度の要否について,どのように考えるか。

[意見]現行法を維持すべきである。

[理由]保証人保護を後退させることになる。また,保証人を保護し,補充性を維持するとすれば,催告と検索の抗弁は必要である。

イ 催告・検索の抗弁の効果(民法455条)

民法455条は,催告の抗弁又は検索の抗弁を行使された債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主債務者から全部の弁済を得られなかっ た場合には,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得るこ とができた限度において,その義務を免れることを規定する。この規定の趣 旨は,債権者の懈怠による弁済額の減少については,保証人の責任を免ずる べきであるということにある。 この規定については,その趣旨を拡大して,債権者が主債務者の財産に対 して適時に執行をすることを怠ったために主債務者からの弁済額が減少し た場合一般に適用される規定に改めるべきとする見解もあるが,どのように 考えるか。

[意見]適時執行義務を課することに賛成する。

[理由]期限の利益を喪失した後は,主たる債務者は一括弁済を迫られているのであり,また,債権者はその権能を前提として主たる債務者と弁済を交渉すべきである。とすれば,主たる債務者の期限の利益喪失について帰責性が全くない保証人については,債権者と主たる債務者の交渉などといった自らに関係しない事由により,自己の財産に対する債権者の回収の額や程度が異なるということを正当化される理由はない。 よって,適時執行義務を課すべきである。なお,これについては,むしろ主たる債務者に対する債権の回収を阻害するということが主張されているが,仮に,適時執行しなかったことを保証人との間で正当化したければ,債権者が,保証人との間で,新たに適時執行義務を履行しないことの合意を得れば足りることであり,何ら問題はない

4 保証人の抗弁等 (2) 主たる債務者に生じた事由に基づく抗弁(民法457条)

民法第457条第2項は,保証人は,主債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができると規定している。 この規定については,保証人が主債務者の有する債権を用いて相殺の意思表示ができると解する見解もあるが,一般には,他人である主債務者の債権の処分権限まで保証人に認めるのは過大であるとして,保証人は相殺によって主債務が消滅する限度で履行を拒絶できるにとどまると解されている。 そこで,この一般的理解を前提に,保証人は主債務者の債権による相殺によって主債務が消滅する限度で履行を拒絶できるにとどまることを明文化するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]相殺により主たる債務が消滅する限度で履行を拒絶するということを明文の規定で定めることに賛成。

[理由]補足説明のとおり。

(関連論点)

現行民法は,主債務者が債権者に対して相殺権を有する場合についての規定を置くのみ(同法第457条第2項)であり,主債務者がその余の抗弁を有している場合については,解釈に委ねられているのが現状である。 この点に関して,保証人は,保証債務の付従性に基づき,債務者の有する抗弁権を援用することができると解されており,また,主債務者が取消権又は解除権を有する場合には,保証人は,取消権又は解除権が行使されるかどうかが確定されるまでの間は,保証債務の履行を拒絶できると解されている。 また,持分会社における社員は,一定の場合に持分会社の債務を弁済する責任を負う点で,保証人に類似した立場に置かれている(会社法第580条参照)ところ,会社法第581条第1項は,社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合に,社員は持分会社が主張することができる抗弁をもって持分会社の債権者に対抗することができると規定し,また,同条第2項は,持分会社がその債権者に対して取消権又は解除権を有するときには,社員は債権者に対して債務の履行を拒むことができると規定している。 そこで,会社法第581条第1項及び第2項の規定を参考にしつつ,上記の解釈を明文化するという考え方があるが,どのように考えるか。

[意見]保証人のその他の解釈上の抗弁権を明文の規定とすることに賛成。

[理由]補足説明のとおり。

民法改正(債権関係・債権法)に関する意見書です。ご自由にご覧ください。